その赤い粉に、見覚えがあった。 母ディディエを殺した毒の粉と同じものだったのだ。 ノエルは、給仕たちが床を綺麗にするのを見ながら、呆然と座り込み、ココットを抱きしめていた。 ◇ とうとうバルバラのターゲットが、ノエルに向けられた。 しかしこの城に逃げ場などなかった。まるで捕らえられたねずみのような気分だった。 窓から空を見上げる。だが、今日は月が見えない。新月だ。闇がすっぽりと月を隠してしまったようだ。