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夜、ノエルはディディエのいなくなった彼女の寝室で、彼女の肖像画を見つめていた。
主のいなくなった部屋も、同じように時がとまったままで、冷たく寂しくなっていた。
ノエルはディディエのベッドに腰掛けた。ディディエの部屋は、彼女が亡くなってもそのままにしてある。
音楽も雑音も人の声もしない、しいんとした部屋にいると、廊下が騒がしくなった。
マーレが、慌てたように部屋に入ってきた。
「ノエル様!また、ファジールが!」
彼女の口調から、それは不幸を示す黒のファジールだということが分かった。
ディディエが死んでから、すでに三匹目だった。以前は、城の中で黒いファジールを見ることなど、なかったのに。

