ノエルは、何も言えずにそれを凝視していた。周りの衛兵たちは、彼の存在など気付かないふりをして、じっとしていた。
じたばたともがく彼は、底なし沼の中へ沈んでいくように、すっかりと姿を消してしまった。
ノエルはいてもたってもいられなくなり、正面の玄関へと走り出した。
先ほどの光景を見ても何食わぬ顔をしていた衛兵たちが、ノエルを見て敬礼をした。
花屋の青年が跡形もなく消えた大理石を見ても、つるっとした堅いものに変わりはなかった。
恐る恐るつま先をつけてみても、びくともしない。ただの大理石である。
「……プリンセス、どうかなされましたかな?」
彼女の不可解な動きを見て、一人の衛兵が声をかけた。

