ノエルが沈んでいるとき、魔法のように彼はどこからともなく現れた。
それが必然的だったからこそ、今は悲しくてたまらない。
そんなことを考えながらふと外を眺めていると、門をくぐって一人の行商がシャルロワ城へ入ってこようとしていた。
ノエルは、彼に見覚えがあった。真っ白の肌、栗色の髪、愛嬌のある赤く火照ったほっぺ。
確か花屋の息子で、会うたびに、ごきげんうるわしゅうプリンセス、というのが彼の口癖で、雪国イヴァンの出の彼は、たまに祖国の話をしてくれた。
こういうときは、気の知れた人と話でもしたいな。ノエルはそんな風に考えながら、彼を見つめていた。
すると驚くことに、彼が階段を一段踏みしめた瞬間、彼の体がずるずると地面に吸い込まれていった。
信じられない光景だった。
まるで溶け出したかのような地面が、意思を持った生物のように、どろりと彼の体にまとわりついて彼を地面の中へ引っ張ろうとしていた。

