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「ギル……ありがとう」
ノエルは、自分の部屋のベランダにいた。ギルは、手すりに胡坐をかいて腰掛けている。
「ほんと、お前はどうしちまったんだ。余計、鈍感さに磨きがかかってるぞ」
ギルはいつものごとくからかうようにして言った。
しかしいつもならムキになって反論してくるノエルは、今日はうつむいてだんまりとしていた。
「……ノエル?」
その彼女らしくない様子に、さすがのギルも顔を曇らせた。
「……ごめんなさい」
大理石の床に、ぽたっと涙が落ちた。
それを見てギルは、はっと、俯くノエルを見つめた。
「私……しっかりしなきゃいけないのに。なのに……」
ギルは手すりから降り、ノエルに向かい合って立った。
いつしか陽も沈み、辺りは静かになっていた。

