「母上……!」
ノエルは信じられないというふうに、亡き母の姿を呆然と見つめた。
ディディエは生前のような美しい笑みをたたえ、ノエルに手を差し出した。
「ノエル。いい子ね……さあ」
母は、消え入るような声で娘に囁いた。
ノエルは、心を奪われてしまったように、母を凝視していた。
母の白く、透き通った手に誘われるようにして、ノエルも手を伸ばしかけた。その時だった。
「やめろ!!」
ワドレーヌ大聖堂に、大声が響いた。
ノエルが声の主に振り返る間もなく、その手から体ごと引き離された。
「……ギル!」
息を切らしたギルが、壁画を睨みつけながら、ノエルを抱いていた。
「馬鹿野郎!」
ノエルは、声を荒げるギルを不安そうに見つめた。

