カチャリ、と金属の音が聞こえただけで、心臓が今にも跳ね上がろうとしている。
息をするのでさえ辛くて、ごくりと唾を飲む。
ノエルは余計な考えをかき消すように、頭をぶんぶんと振った。
彼女の恐怖心とは裏腹に、ペンダントはどんどんと光を増す。
奥へ奥へと踏み入れるたびに、生ぬるい風がノエルを包んでいく。
それは風の音ではなかった。ノエルの目の前に立ちふさがったのは、一面の、聖母の壁画だった。
聖母は温かい笑みを浮かべ、睫毛を伏せていた。しかし、今ならはっきりと分かる。それは、女のうめき声だった。
ノエルは恐怖に負けたように立ち尽くした。
引き返すこともできずに、そのおぞましく、悲しい声を聞いていた。
すると、壁画の中から一人の女性が上半身だけ姿を現した。それは、ディディエだった。

