この芸術溢れるルカッサで、自由な息づかいをし、奔放に振舞うノエルに、彼はいつしか心を奪われていた。
水たまりの跳ねる音とともに、ふとどこからか一人の少女がやって来て、ギルに一輪の花を差し出した。
深いピンク色のその花はテラーと言い、ルカッサにしか咲かない花だった。
その花言葉は、伝わる想い。
身分の違う相手に告白をするとき、言葉の変わりにこの花を差し出すというのが、ルカッサの伝統でもあった。
雨の中、テラーはしずくを纏ってきらりと光った。ギルは、ぼんやりとテラーを見つめていた。
ノエルは、ベッドである本を読んでいた。分厚い本の表紙には、ルカッサ神話伝と書かれている。
その中に、ノエルの大好きなオリオールの神話が書かれていた。

