「……あと少しだけ、ここにいるといい」
ギルはそう言うと、ノエルを背後からすっぽり包んだ。ノエルは黙ったまま、窓から外の景色を眺めていた。
黙ったままの二人の耳に、時計台の歯車の動く音がかすかに聞こえた。
初めは歯車よりも早く鼓動していた二人の心臓も、いつしかゆっくりと重なり鳴った。
シャルロワ城の背後にあるルカッサの山脈に沈む夕日は、二人の影を時計台に落としたのだった。
「マーレ!あれを見て!」
一人の召使いが、悲鳴のような声を上げてそう言った。
「どうしたのよ」
大広間にいた召使いたちは氷のようにかたまり、みな一点を見つめていた。
マーレが彼女たちの視線の先を見ると、何とそこには、大広間の廊下をゆっくりと歩くファジールがいた。
その毛並みは、まさしく夜の闇からそのまま生まれたような漆黒をしていた。
「……黒のファジール……!」
マーレも言葉を失った。

