「行こう。言ったろ、ここは人間がいていいところじゃない。ノエルは知りすぎようとしている」
外は夕日に照らされ、ルカッサは黄昏の時刻を迎えていた。
ノエルは、ギルに抱きかかえられるようにしてマジャッラに跨っていた。
ルカッサの上空を優雅に飛ぶマジャッラは、時計台で二人を降ろした。
「よう、ギル」
ルカッサで一番高いこの時計台は、くるうことなく針を刻んでいる。
中から一人の老人が姿を現した。ボドワンという、時計台の番人だった。
「ボドワンさん、客人だ」
ギルがノエルを紹介した。ノエルは、ぺこりとお辞儀をした。
「ふぉっふぉっふぉ。ギルも隅に置けんのう、こんなべっぴんさんを連れてきおって」
ボドワンさんは、鼻の下にたくわえた白い綿菓子のような髭を触りながら言った。
「きっと、ノエルがプリンセスだって気付いてないぜ。なんせボドワンさんは老眼で何も見えねえんだ」
ギルは、くっくっくと笑いながら、ノエルに耳打ちした。ノエルは、そっちのほうが好都合だった。

