「人間なんかが踏み込んじまって、バチが当たらないといいけどな」
「……」
ノエルは、ミルバの首飾りをぎゅっと握り締めた。
「ねえ、あなた名前は?」
「俺はギル。昨日言ったとおり、エルタニンの民だ」
ギル。ノエルは、口の中で彼の名前を唱えた。
「ノエル」
「えっ」
ノエルはびっくりしてギルを見た。彼女を呼び捨てで呼ぶのは、母しかいなかった。
「綺麗だな、お前の首飾りは」
ギルは目を細めてノエルの胸元を見た。その漆黒の瞳が、水に濡れたように艶やかなのを、ノエルはどきりとした。
「昨日、母上に貰ったの。先代からの代物なのよ」
ふうん、とギルは呟いた。ちらりとギルを見やると、彼はノエルを真っ直ぐと見つめていた。
頬がかっと熱くなるのを感じた。
「ね、それより、あの紋章を見て」
ノエルは慌てて話題を振った。彼女は、壁画の一部を指差した。その先にあったのは、古い王冠の紋章だった。
「王冠?あれがどうしたんだ?」
「だって、おかいしわよ。ルカッサは女王の国。王冠なんかかぶらない、ティアラだもの」

