「ノエル様!?」
給仕たちは、人の波を縫って外へ出て行こうとするノエルに慌てて声をかけた。
テラスに出たノエルは、胸の奥が締め付けられるように、とても苦しかった。苦手なドレスの所為ではない。
山に近い、崖の上に建てられたこのきらびやかなシャルロワ城の中では、ノエルはプリンセスでしかないのだ。
男たちにとってプリンセスとは、約束された未来、勲章、そして勝者といった象徴でしかなかった。
「……ココット?」
一匹のリムがノエルに擦り寄ってきた。
リムとはネコ科の動物で、主に宮廷や貴族に飼われているペットだった。その毛並みは美しく、食べ物で色が変化する。
ココットは闇が明けたような、深い群青色をしていた。
ノエルは、ココットの背中を優しく撫でた。
「私もお前に産まれたかったわ。お前は気まぐれで、気高くて、誰のものにもならないものね」
ココットは心地よさに目を細くさせると、地面で伸びをした。
「みんな、私のことをプリンセスって呼ぶの。私、ノエルなのよ。ノエル以外何者でもないわ」
ノエルが泣きそうになりながらそう言うのを、ココットは聞いているのかいないのか、何も言わずにどこかを眺めていた。

