桜が好きだった母の為に、城下町が一望できる山に墓を建て、側には桜の木を植えた。

自分が死んだら、この場所に埋めて欲しい。

景丸も願いを託して。



その桜は、今もどこかの山で美しい花を咲かせているのかもしれない。

山に囲まれたこの場所で、その場所を見つけ出すのは困難かもしれないけれど…。

「ねぇ、隆」

あたしは、景丸の桜の木を見上げて言う。

「毎年、桜の咲く頃に、景丸に会いに来よう?

ね?」

悔しさに視界を滲ませていた隆も、桜の木を抱きしめて、

「ああ」

短い返事をする。

隆にとってここは、自分の代わりに斬られて亡くなった、愛しい人が眠る場所。

あたしにとってここは、愛しい人の命を守り、彼女の幸せを願って、誇らしげに息絶えた場所。

千の意識を持つ、隆と。
景丸の意識を持つ、あたし。

時には母子として同じ時を生き、いくつもの時代を経て―――。


あたしたちはようやく、出会った。

『恋』が許される、男女として。