あたしは隆の肩に手を置いて答える。

「それは違うよ」

あたしは、もう一つの想いも感じ取っていた。


『小雪、お前は逃げなさい。
その子を守るのです』

正室に妊娠の事実を知られ、命が狙われることがわかり、身代わりになろうとした小雪に千は告げる。

『殿を裏切った私を、殿は許してはくれないのだから…。
逃げる場所などないのです』

すでに死を意識していた、千であった。

『だからお前は、逃げなさい。
生き延びて、そして元気なお子を産むのです』

「千は、小雪と子供の命を守ったんだよ?
千は、強いよ」

「………」

「それに、景丸は千と一緒にいたんだから。
景丸も幸せだったの」

千は我が子に『景丸』と名付けた。

『景丸』『景丸』…。

そう、千が呼ぶから。

景丸の心は、千を見つめ。

景丸の魂は、千と生きた。

千と殿の子供として、生まれ変わって。

木の下で眠る景丸の意識。

それは、千と同じく『幸せ』であった。

待っていたんじゃない。

千が亡くなるその日まで。

共に生きていたんだ。

「隆。泣かないでよ…」


殿の望み通り、この地で一緒になることは叶わなかったが、生まれ変わった景丸は、千の子供だったから…。

同じ場所に埋葬された。