「行こうか?」

隆の言葉に、素直に頷いたあたしは、そっと隆の手に触れた。

いつもそうしたいと思いながらも、躊躇してできなかったのは、あたしの胸の奥にある感情がそうさせていたんだよね?

『景丸…』

と、自分の心に話しかける。

『隆と幸せになるよ』



歩き出したあたしたちは、とある建物の前で歩みを止めた。

『千樹庵』

そう名のつけられた建物は、その昔、千が住んでいた館。

今も昔も変わらずに見える風景の先には、いつも千が見ていた桜のトンネル。

あたしも。
隆も。
ふたりが好きな場所。


『千樹庵』は、桜まつりの期間中は一般開放されていて、縁側に腰掛けながら、桜を堪能しながら、お茶が飲める場所になっていた。

他の観光客に混じって、あたしたちも縁側に座ってみる。

千が、景丸のことを想い、見ていた景色。

そう思うと、千の気持ちが伝わってきて、込み上げてくるものがある。

「お茶をどうぞ」

と、着物姿のお姉さんが、湯飲みに入ったお茶をふたつと、串団子がふたつ載せられたお皿を一つ、お盆に載せて持ってきた。

その姿は、小雪を思わせた。