抱き合う、ふたり。

お互いの感情が溢れた。



我が子を抱き、優しく微笑む千を、上空から見守っているのは景丸。

「景丸。私は母になりました」

空を見上げて、報告する。

「姫様?」

の声に、

「小雪。私はもう姫ではないのだから。
あの頃のように、『千』と呼びなさいと言ってるでしょう?」

軽く睨んで、そう言った。

けれども、すぐ笑顔になる。

小雪の腕に抱かれた赤ん坊は、母親の胸の鼓動に安心したように、小さな寝息をたてている。

殿の子だということは、ふたりとも誰にも言わない。

城から遠く離れた街で、ふたりは新しい生活を始めた。

景丸はずっと、千と共にいた。

悲しい時は、頭を撫で。
うれしい時には、共に喜び。
苦しいことは、分かち合い。

千と共に生き。

二人の子供の成長を見守り…。

元気に働く千も。
子供達を叱る千も。
自分のことを想い、涙する千も。

……。

歳老いて行く千も。

命の灯が消え行く千も。

景丸はずっと待っていた。

黄泉の国へ共に旅立つ、その時を――――。

手をつなぎ、共に歩く、ふたつの影。



『――千』

『景丸―――』



ふたりは今ここで。
初めて、ひとつになった。