サー――。
と、血の気がひいて行くのがわかる。

「わかりました」

急いで支度を整えた。




そうして、館から逃げ出す影がふたつ。

「いたぞ!!」

後ろから、数人の男たち。

「小雪。お前は逃げなさい」

「姫っ!」

そう言うと、千は小雪とつないでいた手を離して、逆の方向へと走り出した。

「私はここです!」

わざと叫んで。
男たちを引きつけた。

着物の裾を持ち上げて、逃げようと背中を向けた時だった。

「千姫!!」

微かに名前を呼ばれた気がして、千は立ち止まり、声のした方を見る。

「何をやっている!?」

強く腕を掴まれた。

月明かりに照らされて、闇から現れたのは殿であった。

が、いつもの優しい殿とは違うように思えた。

追い付いた男たちも、殿が相手では太刀打ちできない。

「チッ」

舌打ちをして、闇へと消えてゆく。

「なぜ、小雪を逃がした?」

殿は問う。

「私は、どこにも逃げられないからにこざいます」

千の着物を着て、身代わりになろうとした小雪を制したのは、千自身であった。

その千をじっと見つめて、殿は問う。

「姫には、子がおるのか?」

「はい」

体調不良の原因。

それは病などではなくて、新しい命を、その身に宿したからに他ならない。