あの夜以来、殿はほぼ毎日のように、千の元へ訪れた。

昼といわず夜といわず。

千の元へ通う殿を、恨めしく思っている正室は、その憎しみを千に向けようとしていた。

一斉に咲き誇っていた桜はあっという間に散り、庭には落ちた花びらの薄紅色の絨毯ができていた。

緑の葉の衣をまとった木々。

庭の景色が変わる頃。

千の体調にも変化が表れていた。

体調を崩し、寝込むことが多くなった。

そんな千の元へ、それでも殿は毎日のようにお見舞いに訪れた。

何かを話すわけでもなく、ただそっと手を握るだけであったが、そのぬくもりが、いつからか千の支えともなっていた。

いつの間にか、殿の訪問を心待ちにしている千がいた。

景丸以外に、誰かを愛おしいと思えるようになっていることに、千は気がついてしまった。

けれど、そんな千の気持ちの変化に気がついていない殿は、いつものように千の手を握りしめて、

「姫から、その美しさを奪ったのは、わしであろうなあ?」

淋しく呟くのであった。

千は何も答えない。

いや。
答えることが、できないのだ。

突然の殿の言葉に。
その真意を理解できずにいた。