その夜。

「頼みましたよ」

千の声に、小さく頷く小雪。

そして、こっそりと館を抜け出し、駆け出す、ひとつの影。


………………………………。


「千姫?」

殿が名前を呼ぶ。

「明かりを消しても、よろしいですか?」

背後から、ゆっくりと伸びる殿の腕。

抱きしめられ、フッと息を吹きかけて、ろうそくの炎を消す。

重なる、ふたつの影。


………………………………。


駆け出した影が目指す場所。

それは、ふたりが永遠の愛を誓い合った、約束の場所。

景丸は、約束通り来ているのだろうか?

想いを、うまく伝えることはできるだろうか?

館にひとり残して来た、友のことを思うと、胸が痛む。

悲しみの涙を流しているに違いない。

だから、急いだ。

早く、早く館に戻らなければ…。


ザッ。

物音に思わず身体が反応する。

月夜が照らす、薄闇に浮かび上がるひとつの影。

「景丸?」

声をかけた。

頷く影に、近づく影。

並ぶ、ふたつの影。


―――そうして
それぞれの夜は更けてゆく―――