この城に来た目的。

それは、ただ姫になるための教育を受けるためではない。

殿と夜を共にし、子を設ける。
そして、男子を産むこと。

それが側室としての役目。

その日が、刻一刻と迫っていたのであった。

身体を許したいのは、景丸ただ一人なのに。

景丸以外の人に抱かれるのなら、それは汚(けが)れるのと同じことだから。

汚れてしまう自分を、景丸には待ってと言えない。

清いうちに、別れを告げなければならない。

その想いを、小雪はただ真っすぐに受け止めた。

小雪は幼い頃から千と一緒にいた。
親友だった。

千が城に行くのなら…と、世話役として付いて来たのであった。

身分が変わって、小雪も『千』ではなく『姫様』と呼ぶようになりはしたが、二人は昔と同じく仲良しであった。

千と景丸が夫婦の約束をしたことを小雪は知らなかったが、二人が想い合っていることは、なんとなく知っていた。

だからこそ、千のことを想い、ひとりにするのが不憫と、自ら願い出て侍女にしてもらったのだった。

「姫様…」

小雪はなんと声をかけていいのか、言葉に詰まった。

けれど、時は待ってはくれない。

その夜は、もう目の前に迫っていた。