観桜会(お花見)の席で、舞を披露したお礼にと、城から戴いた桜の鉢植え。

鉢に植えておくのは、かわいそうだからと、ふたりは城が所有し、城の隣の小高い丘に忍び込んでいた。

ここに、鉢植えの桜を植えるのだという。

母に似て、花を愛でる心を持つ少女だと、景丸は思った。

毎年、桜の咲く頃、ふたりはこっそりこの丘を訪れては、ここから城の桜を眺めていた。

…と言っても、少女が無理矢理嫌がる景丸の手を引いて連れて来るのだけれど。

そんな思い出のある場所だから、植えるならここがいい。

決めたのは少女だった。

景丸が周囲を気にしている間に、ひとりで植え替えを終わらせた少女は、景丸と向き合うように体を移動して…、

「来年、この桜が咲く頃に。
私たち、一緒になろうか?」

突然の告白をした。

『一緒になる』

その意味を理解した景丸は、儚く笑って。

「そうだね。
夫婦(めおと)になろうか?」

そう、答えた。

それが、叶わぬ約束であると知りながら、ふたりは桜の木の側で、永久(とわ)の愛を誓い合った。

それは…。

悲しい約束。

もう会えなくなることを。

知っていた――――。