「だって…。
あたしまだ、何も…。
思い出してない」

初めて隆に出会った、あの日の懐かしい気持ち。

この胸のモヤモヤも、隆との記憶に何か関係があるなら――。

知りたい。

そう思った。

「知りたい?」

あたしの心を見透かすように、隆が見てる。

うん。
頷いて、返事をした。

すると、
スッと隆の指先が、おでこに触れた。

隆の指先は冷たくて、スーツとあたしの体温を奪ってゆくように…。

あたしの記憶も、奪われてゆくように―――。

記憶が遡ってゆく気がする。

スーッ、スーッと闇の中。

あたしは記憶と共に、闇に呑まれていった…。


…………………………


「お城の桜は、あんなにも美しいのに…」

ぶつぶつ言いながら、少女は懸命に穴を掘っていた。

横で、それをじっと見ていた少年をちらっと見て、

「景丸も手伝ってよ!」

と、近くに落ちている木の枝を少年の側に投げた。

「見つかったら、大変だよ」

辺りを気にしながら、景丸と呼ばれた少年は小声で答える。

「だから、見つからないうちに埋めるんじゃない!」

と、穴を掘る手をやめることなく少女はつぶやく。

「こんなところで、縮こまっているなんて、かわいそうでしょ!?」