俺は今まで一人で通っていた道のりを彼女と一緒に居れる事が嬉しくて仕方がなかった


『毎日毎日この道を幸汰は通ってくれてたんだね』


彼女はギュッと手に力を入れた


『帰りは嫌だったけど行きはいつだって楽しかったよ。顔を早く見たかったから』


病院への道のりを苦だと思った事は一度もない

いや、病院に限らず彼女の居る場所に行く事はいつだって楽しい

だから俺は学校に行く事も楽しかったんだと思う


『私もね、苦しい事ばかりだったけど幸汰が居てくれたから頑張れたんだよ』


改めて言う彼女の言葉に胸が熱くなったのを感じた


彼女はそう言ってくれたけど、頑張ったのは間違いなく彼女自身


俺は何もしていないし、何も出来なかった


いつだって、今だってこんな風に彼女が喜ぶ事を探してる



『俺達の町が見えて来たよ』


彼女は自転車の後ろからひょっこりと顔を出した

そこに見えたのは田んぼだらけの田舎町



外出時に鍵もかけない平和な町で


周辺に住むお年寄りはみんな俺を孫のように可愛がってくれる町で


夏場になれば窓からカエルが入ってくるような町で


道のど真ん中を歩いても車一つ通らない町で


彼女が大好きだと言ったこの町