『幸汰君ってこの町好きでしょ?』


今まで話した事なんてなかったのに、彼女は意図も簡単に俺との壁をぶち破ってきた


花壇に水をあげていた俺の手はピタリと止まり、如雨露(じょうろ)からは水が流れたままだった


正直、彼女の顔をこんなにまじまじ見たのは初めてだ

多分、いや絶対この学校で一番可愛いと断言できる


それと……彼女は俺の事を名前で呼ぶ事も初めて知った


ほとんどの男女が名字の呼び捨てか、それに“君”か“さん”を付ける


彼女にとってこれは一種のスキンシップで、特別な事ではないのだろうと思った

俺は少しだけ冷静になり、如雨露を元の位置に戻した


『その言葉……そっくりそのまま佐々木さんに返すよ』



これが彼女と俺の初めての会話だった