『あ、ごめん…また私寝ちゃってた』

彼女は目を擦り体を起こそうとしたが、俺はそれを手で止めた


『そのままでいいよ。それより見て』


俺は机の上に置いたハンカチを開き、中にある桜の花びらを彼女に見せた


『あ、桜だ……』


この病院の周りにも桜は咲いていたけど、彼女の病室から見る事は出来ず

度々“桜が見たい”と彼女が言っていたから


『これじゃショボいよな。本当は桜の枝ごと持って来たかったんだけど…』


俺の冗談に彼女はクスクスと笑っている


彼女は以前よりまた痩せて、手は骨の骨格が分かる程だった


彼女の病状が悪化している事は分かっている

だけどお互いに不安を煽り合う事はせず、笑って毎日を過ごしていた


『明日から強い薬の投与が始まるんだって』

彼女の言葉に俺は動揺しなかった


俺だって笑って過ごしているだけじゃなく、ちゃんと彼女の病気の事を把握している


彼女の病気を知った日から急性リンパ性白血病についてたくさん調べ、分からない所は直接看護婦さんに聞いたりした

だからこそ、強い薬の投与が始まるという事がどうゆう事なのか分かっていた