『お母さんと会っちゃったね』


二人っきりになった病室で彼女はふざけながら言った


『あんなに優しいお母さんならもっと早く挨拶すれば良かったよ』

緊張がほどけた俺はベッドの横にある椅子に腰掛けた



『今日の検査は何をしたの?』

俺がそう言うと彼女は右腕を捲った

細い腕には小さな注射の跡

『注射して血をとったの。血液の検査だって』


彼女はいい終わると袖を元に戻した


結果が出るのは数日後で、その間にも色々と検査をするらしい


なんだか本当に大事(おおごと)に思えてまた不安になったけど、彼女は再びあの言葉を言った



“心配しないで、大丈夫だから”



その日から俺は学校が終わると病院に行き、19時には病室を出る


本当はギリギリの面会時間まで一緒に居たいけど、『帰るのが遅くなると私が不安だから』と彼女が言ったから


俺は学校を行く時も病院に行く時も彼女の手袋をはめていた


お互いの不安が消え、また一緒に登校できるようになったら返そうと決めていた