祐太が、やって来た。
「何だよ」
「佐紀がね、祐太がテストの時、
手ブラで来るのは、なぜかなって」
華子が佐紀を見ると、佐紀の耳たぶは、
真っ赤になっていた。
佐紀は、後ろの机に、
頬杖をつくようにして、耳たぶを隠した。
「うん、まっ、その、なぜかなって…」
華子は心の中で、拍手しながら、
“上手いっ”と思った。
「祐太、中学の時からですわよね」
「ああ、そうだよ。
2年の終わりに、テストの時、
1度も教科書を開いてないのに、
気がついたんだ。
なら、そんな重い物、
持ってこなくてもいいやって。
それに、見たけりゃ、
みんな持ってるし」
「どう? 佐紀さん、わかりまして?」
華子は、自分では、気付いていなかったが、
佐紀をからかう時だけ、
“佐紀さん”と、さん付けになっていた。
「えっ、う、うん、わかりました」
次のテストのため、先生が入って来た。
「あら、もう休み時間、終りなの?」
祐太も友理も、自分の席に、戻って行った。
華子も、残念そうにして、席に着いた。
佐紀は、しばらくの間、
頬杖をついたままだった。
しかも、右手でついていたので、
問題を、2回も読み返すことになった。
そして後ろでは、そんな佐紀を、
ニコニコ見ている、華子がいた。

