華子は、音楽を聞くふりをして、
全神経は、横の佐紀に、注いでいた。

恐らく、佐紀もそうだろうと思った。


  “さっ、次、行きますわよ”


華子は、今、気付いたように、


  「あら、祐太、いましたの?」


  「よっ」


佐紀の緊張の針が、さらに振れるのを感じた


  “まだ、まだ”


華子は、さらに追い打ちをかけるべく、


  「祐太、ロック、好きなんですの?」


  「ああ、結構、聴くよ」


  「佐紀さんも、好きなんですのよね。
   だから、ここに来ようと……」


  「えっ、ああ、私も、聴くよ」


佐紀の緊張はピークになったのではないか

いや、振り切れたかもしれない。

恐らく、佐紀は今、
真っ赤になっているのではなかろうかと、
華子は思った。


  “佐紀さん、暗くてよかったですわね”


華子は、そう、心で話しかけた。


少しして、佐紀が、


  「じゃ、じゃあ、次、行こっか」


と言ったので、


  「あら、まだ、いいじゃありませんこと
   もう少し、聴いていたいですわ」


  「でも、…………」


  「これ、ええ曲やで。
   もうちょっと、聴いて行こや」


  「えっ、ああ、うん」


華子は、“友理、ナイス”と思った。


  “まだまだ、放さないわよ”



それからも華子は、時々、祐太に話しかけ、
その話に佐紀を巻き込んでは、
一人、楽しんでいた。

結局、佐紀達は、祐太が席を立つまで、
そこにいた。