試合が始まった。
坂井コーチは、椅子に座ったまま、
何も言わず、試合を見ていた。
頻繁にメンバーを替え、現在の状態を
見ているようだった。
一方、オフィシャル席では、
気心の知れた5人だけに、勝手な事を、
話していた。
「あっ、今のパスは、ないじゃん」
千奈が、目ざとく、
「コーチの足、ピクッと動いたよ。
あれ絶対、怒ってるんじゃん。
ちょっと、友理、見て見て」
そう言って、肘で友理を小突くと、
「ちょっと、やめてぇ。
ウチ今、それどころやないんやから。
邪魔せんといて」
友理は、30秒計を操作しながら
必死で、コートを見ていた。

