佐紀が、感心したように、


  「甲陽って、ずっと県大会、
   出てるって言ってたけど、
   結構、伝統があるんだね」


  「最初に、言いましたでしょ?

   佐紀は、ホントに、
   何も知らないんですから」


  「だって……」


華子は、佐紀の言葉を、手で押し留めて、


  「その先は、言わなくて結構ですわ。

   ホントにもう、
   散々悩んで、ここに決めた自分が
   バカみたいに思えますもの」


経緯を知らない歩美が、華子に訊いた。


  「えっ、何のこと?」


華子は、ゆっくり首を振り、大きく息をして


  「じゃあ、佐紀さん。
   どうして甲陽に決めたか、
   教えあげて」


  「えっ、だって、近かったんだもん」


それを聞いて、歩美は、手を叩きながら、
大声で笑った。


  「キャハハハ、受けるぅ」


  「ウチも、近かったから」

  「私もだよ」

  「私も」


港南の面々は、口々に、近くだからと言った


  「まったく、港南の人たちは……」


歩美は、笑いながら、


  「華子は、ちゃんとしたバスケが
   したくて、親父さんと喧嘩してまで、
   ここに来たんだよ。

   そりゃ、怒るわなっ」


  「ゴメン」


  「あなたが謝る事では、ありませんわ」


  「ゴメン」


  「だからぁ」


歩美の笑い声は、校門を出るまで続いた。