~悠人~


「おはよう、悠人くん。」


 次の日、意外なコトに声をかけてくれたのは、先咲さんのほうだった。


「おはよう・・・先咲さん・・・って、えぇ!」


 い・・・今、悠人・・・とお呼びでは?


「どうしたの?」


「いや、何デモないよ・・・み・・・美琴さん・・・。」


 男として、コレぐらいで動揺するわけには行かない。


 それでも、いきなりの奇襲攻撃。


 危うく、命を落とすところだったぞ・・・。


「昨日はありがとう。ずっと私の家の傍にいてくれていたでしょ?寒くなかった?」


 あ・・・ばれていた?


「ソレぐらい、お安い御用だよ。シャーリー一匹じゃどうしても不安だしね。何なら、しばらくあの公園で見張っているよ。」


 あの影が、また先咲さん・・・もとい、美琴さんの家を襲うか、わからない。


 そのときにシャーリー一匹では、間に合わない可能性が大きい。


 二重生活は多少疲れるが、それでも目の前の女性を亡くすぐらいだったら、お安い御用だと思った。


「あ・・・ソレなんだけど、今日からは大丈夫よ。」


「え?どうして・・・?」


「えっと・・・私のマスターが『もっと効率の良い方法を思いついた』・・・って。」


「もっと・・・効率の良い方法?」


 その言葉に、悠人は顔をしかめる。


 なにせ、美琴さんのマスターといえば、毎夜自分の証拠を消すために、美琴さんの記憶を消し去る、狡猾で、残忍で、卑怯なヤツだ。


 そんなヤツが、良い方法を思いついたといえば、まず自分にとっては良い方法ではないだろう・・・。