~由良~



 悠人と先咲さんが誘拐されてから一月の時がたった。


 長すぎる一月だった。


 由良は町外れにある大丸ビルを一日見張り、確固たる証拠を入手した。


 ビルの最上階の窓、右から二番目のところに、彼女の姿を発見したのだ。


 あの時、悠人と一緒に連れて行かれた彼女。


 自分の胸を突き刺し、泣きながらあやまった彼女。


「先咲さん・・・。」


 それが、確固たる証拠となった。


 間違いない。このビルだ。


 迷いはなかった。


 すぐさまに、由良は行動を開始する。


 情報収集、見取り図の入手、武器の整備。


 頭は驚くほどに冷静だった。


 そして、深夜とも言うべき夜中の1時。


 由良は、全身黒ずくめの服に覆面をかぶり、ビルの中に・・・あろうことか、正面から潜入する。


「な・・・貴様は?」


 出迎えてくれたのは、一面黒ずくめの男たち。


 深夜だというのに、お勤めご苦労様と行ったところだ。


 しかし・・・。


「運がなかったな・・・お前たち。」


 三流の悪役じみたセリフを吐き捨てながら、由良は手に持っていた発煙筒の一つを投げつける。


 一瞬にして、あたり一面を多い尽くす白煙。


 非常ベルが、ビル中に響き渡った。