「ありがとう、迅」
ある日の練習の帰り道
隣にいる迅に
なんとなく言った。
そんな彼をみたら
優しく微笑んでいた。
家に帰ると
誰もいなかった。
最近
母親は
夜どこかへ出かける。
私は
ただいまは言わず
階段をのぼり部屋へ入った。
この広い家にいるのは
私、たった一人。
静かで
静かで
夢への不安を抱える前に
現実の不安を
ちゃんと解決しなくちゃ
いけなかった。
直りかけていた母親が
また
道を外しかけていた。
「遅かったね、お母さん」
「………まだ起きてたの」
「…酒臭い………」
「寝なさい」
「男といたの?」
「……寝なさいって言ってるでしょ」


