こんな会話よりも
あたしはどうしても確かめたいことがあって……
唇を噛み締めて、勇気を振り絞って口を開いた。
「――昨日、聡ちゃんとどこにいたの?」
伊織さんは表情を変えないまま、あたしを冷めた目で見てくる。
何もなかったって
やましいことなんかなかったって言って……
クスリと笑ったピンクの唇は口角がグッとあがって、あたしの願っていた返事は返ってこなかった。
「私の部屋よ。一晩中愛し合っていたの」
目の前が真っ暗になる……。あたしの足がついている地面だけが揺れているみたいに、またおかしな空間に入り込んでしまった。
「やだ! 雨!?」
ポツポツと黒い雲から雨が落ちてきて、アスファルトを水玉模様に染めていく。
伊織さんは慌てて、タクシーをひろってあたしの前から立ち去った。