――放課後、真っ直ぐアパートに帰っていたあたし。
今晩の夕御飯は昨日作って全く手をつけていない焼き魚としょうが焼きとお味噌汁が冷蔵庫にあるし……
聡ちゃんが帰ってくるまで少し寝ようかな。
テルミには欲がないって言われたけど、あたし、睡眠欲だけはたくさんあるんだから。
眠くて眠くて仕方ない……
あくびをしながら歩いていると、あの香水の匂いが鼻についた。
何故か反射的にドキッとして振り返ると、伊織さんが高級ブティックから出てくるところだった。
両手には紙袋がいっぱい。
「あら、偶然。どこのガキがガン飛ばしてんのかと思ったら」
「ガキじゃないし」
「私から見たら充分ガキよ。そのシュシュも安っぽいし」
ポニーテールにつけたシュシュはあたしの手作り。安っぽく見えて当たり前。だって0円だもん。