ボーナスで黒いスーツを初めて買った。それを身にまとい、杏さんに教えてもらった聡ちゃんのお墓に向かった。
「ここだ」
長谷部家のお墓……。菊の花をあげて、持ってきたお線香をあげようとした瞬間……
「あ、ライター忘れた!」
お父さんも禁煙中だし。タバコなんて吸わないから、ライターの存在を忘れてた。
「……ま、いっか。聡ちゃん、ごめんね」
あたしは火もつけていない、お線香の束を線香さしの一番大きな穴の中にズボッと入れた。
「ぷっ……バーカ」
…………………………。
……………………。
幻聴?
すごいはっきり聞こえた。あたしの好きな聡ちゃんの声……
「あたしって、バカだよね……」
聡ちゃんの声が聞けるなら……早くここに来ればよかった。
「聡ちゃん……」
聡ちゃん
聡ちゃん
目を閉じて、手を合わせると聡ちゃんの生前の姿が次々と浮かんできて涙が止まらない。
「――お前さぁ、きちんと墓石見ろよ。俺の名前、彫ってあるか?」
「え?」
幻聴なんかじゃ……ない……
黒いスーツを着た男の人が、墓石の後ろからあたしの前に現れて……
時間が
止まった――……


