「すみません、タバコを一本分けてもらえませんか?」
「あ? 俺、接見禁止だから。今後、差し入れしてもらえないから無理」
タバコなしの生活なんて考えられねぇし。白髪混じりの男は俺の態度に気を悪くすることなく笑顔で話しかけてきた。
「そうなんだ。私はね、誰も会いに来てくれる人がいないんだ。接見禁止でも差し入れしてもらえるお兄さんが羨ましいよ」
「……家族は?」
「借金が原因で嫁には離婚されて、娘だけいるよ。まだ高校生なのに一人残してきたから今さら会わせる顔がないんだよ」
……借金……娘?高校生ってもしかして……
「おっさん、もしかして水森正敏?」
「どうして私の名前を……?」
おっさんは驚いた表情で俺を見てくる。嘘だろ?ラミカの親父が何でこんなところに……
「おっさんちに借金の取り立てに行ってたんだよ」
「は、はは……そうだったんだ。返せなくて申し訳ないね。……最後に一発当ててやろうとして借りた金も競馬で全てなくなったよ」
「……何でここにいるんだ?」
「食べるものに困って盗みを繰り返していたらこの様だ。情けない」
本当に情けないように俯むくおっさん。
ラミカの親父を探し出して会わせてやりたいと思っていたけど、こんな無様な姿に成り下がった親父を見てラミカは傷つかないか?


