「ははっ、心臓は言い過ぎでしょ?」
「杏は本当に母さんのこと分かってるわね。ま、心臓は言い過ぎね」
言い過ぎかよ!何なんだよ、こいつら。
「聡一を医者にしたくて、間違った教育をしてしまったのは認めるわ。ごめんなさい。だけどね……」
食事をしていた手を止めて、今度は親父が口を開いた。
「組からは抜けなさい。お付き合いしている彼女がいるならなおさらだ」
「……言われなくてもそのつもりだ」
「え? 聡一、ヤクザ辞めちゃうの? ネタなくなるぅーつまんない」
「お前、マジで黙れ」
きちんと抜けるさ。ラミカが卒業したら……
「分かっているならいいんだ。
――最近いい噂をきかない。ま、ヤクザには悪い噂しかないがな」
……親父の言葉が妙にひっかかった。いい噂をきかないって……何か情報が漏れてるのか?
「聡ちゃん、これどうやって食べるの?」
運ばれてきたデザートのアイスの上にかかった砂糖細工。ラミカからスプーンを取って、グシャグシャに潰した。
「ああ――!! ばかぁ! 綺麗なドームだったのに信じられないっ!」
「食い物は胃に入れば全部こうなるんだよ」
ふてくされるラミカを見て、みんな笑っていた。久しぶりに……両親の前で笑えた。