「葉山さん、奥様のことは本当に残念でした」
「――っ! 俺のこと覚えて……」
「忘れるわけありません。本当に奥様は手遅れだったのです。セカンドピニオンを希望されておりましたが、受ける前に亡くなられてしまいました。だけど同じ診断結果だったはずです……ご理解頂けませんか」
「何でだよ……だってあいつは前日まで普通に笑って、飯も食べていたのにっ……」
「前兆はあったはずです。しびれや頭痛。奥様は我慢強い性格だったのではないですか? 唯一の救いは奥様は何の痛みもなく逝けたことくらいでしょう」
「分かってるよ……あんたに逆恨みしてもあいつは生き返らないって! 分かってるけど……」
犯人は床の上に泣き崩れた。親父は足をつき、犯人の肩を抱いた。
「生きる糧を失うということは本当にやりきれない。ただ、あなたには奥様の残した大切なお子さんがいらっしゃる。生きて下さい。奥様がしてやれなかった分まであなたが愛情を注いであげて下さい」
何でだろう……親父の言葉はまるで、俺のことを重ねて話しているように聞こえて……
胸がくすぐったい。


