「ちょっと! 警備員は? 警察早く呼びなさいよ!」
「黙れ! 俺に近づいたら院長婦人を刺すぞ!」
「百合子も落ち着きなさい。お話なら聞きますからナイフをおろして下さい」
空気読めない奴がもう一人いた。ナイフを向けられているお袋は、震えながら罵声をあげた。犯人を刺激してどうするんだよ?
どこか隙がないか見る俺。一瞬でも男に隙ができれば……
そんなことを考えていると、涙目のお袋と目が合う。
「そ、聡一! 助けて……」
「黙れって言ってるだろ! おい、お前らもっと下がれ!」
「あなたは喧嘩ばかりして困らせてばかりだったけど強いんでしょ。こんな時くらい役に立ちなさいよ!」
お袋が俺に助けを求めている。……まぁ、そうだよな。人は極限状態に陥ってこそ、本当の姿をさらけ出す生き物。
「ババア、聡一が刺されてもいいの? あんたの子供でしょ?」
「姉貴、言わせてやれよ。俺はもっと本心を知りたいんだから」
親なら子供を一番に守る生き物。お袋は……俺がどうなっても構わないと思っている。親父の言うように、お袋も俺を子供だと思っていないんだ。
「聡一、お前には一切関係ない。お嬢さんと一緒に帰りなさい」
「ああ、帰る。ラミカ、行くぞ」
ひいた手ははらわれて、親父のほうへと走って行くラミカ。
「ラミカ!」


