「どうした? 何事だ!?」
「ナイフを持った男が奥様を……!」
ナイフ?出口付近にいた群衆は悲鳴をあげながら道をあけ、男から首にナイフを向けられているお袋が入ってきた。
「百合子!」
「うっそー。マジで本当の修羅場じゃん」
「杏様、危険ですので下がって下さい」
男は周りを気にしながら、ゆっくりとこちらに向かってきた。
目がいってんな。俺もラミカを後ろに下がらせた。
「院長先生……俺のこと覚えてるか?」
「落ち着いて。ナイフをおろしてくれませんか」
「覚えてるわけねぇよな。あんたにとっちゃ、一人の患者の家族なんだから」
……患者の家族。ナイフまで持ち出してくるあたり、相当な恨みがあるな。
「聡ちゃん……」
「大丈夫だ」
俺の背中をグッと掴んでくるラミカ。その隣には、皆吉さんの背中の後ろにいる姉貴……
「医療ミスかしら? 何が目的なの? ちょっと取材したいからどきなさいよ」
「ダメです。たとえ杏様の命令でも」
空気読めよ。仮にも自分の母親がナイフ向けられてるっていうのによ。


