「ラミカ、お前は下がってろ」
聡ちゃんは口についた血を手で拭うと、あたしを後ろに下がらせた。
「こいつだけは手を出さないで下さい。お願いします」
あたしをいつだって守ってくれた聡ちゃんの背中。だから今度はあたしが……
ふらつく足で、事務所を出ていくあたし。
「ねーちゃん、聡一を置いて逃げるのか?」
「逃げるわけないでしょ」
階段をのぼってくる時に気づいたんだ。コンクリートの廊下に無造作に置かれた消火器。あたしは消火器を手に取ると、安全キャップを外した。
「ラミカ!?」
「おいおい。何する気だよ?」
そりゃあ、することはひとつ。あたしは堂島さんにホースを向けた。
「聡ちゃんのこと、殴ったお返し」
「おい! 止めさせろ!」
言うが早いか、勢いよく消火器から真っ白な消火剤が噴出して堂島さんは見えなくなった。
「アニキ!」
「くそっ! 女を捕まえろ!」
お茶を出してくれたお兄さんは、あたしから消火器を取り上げようとするけど
薬のせいでフラフラと縦横無尽に動くあたしをなかなか捕まえられず、自分まで髪が真っ白になってしまっていた。


