怖い……違うのに……そんなんじゃないのに!



あたしはギュッと唇を噛み締めた。



「――ストックホルム症候群」


「え?」



リビングのドアが開いた先には制服を着た背の低い男の子が立っていた。そして、無表情であたしを見つめてきて言葉を続けた。



「人間は犯罪を犯した者と長時間過ごすことで、我が身を守ろうと犯人と仲良くしようとする傾向がある。そして情までわいてくる。つまり、知らず知らずに暗示にかかっているんだよ」


「拓也(たくや)君、塾は?」


「今日はテストだったから早かった。ただいまって言ったのに誰も出てこないから廊下で話を聞かせてもらったよ」



だ、誰……?



「ラミカ、紹介するわ。手紙には書いてなかったんだけど、拓海さんの子供の拓也くん。中学三年生よ」



拓海さんの連れ子。本当なら挨拶しなくちゃいけないのに、この子に言われた言葉が頭の中でぐるぐるとまわって言葉が出てこなかった。



「よろしくね。お姉さん」



にっこりと笑う拓也くん。お姉さんなんかじゃない……あたしはここの家の子供にはならない!