「きちんとボロ出さないようにして行きなさいよ。敬語は使えるの?」


「使えるっす」


………………………。


「そんなチンピラみたいな話し方するな! ったく。心配だわ。この本、持っていきな」



なおさんはたくさんの雑誌をかき分けて、『日本人のマナー』というお固い本を手に取って俺に渡してきた。



「俺、読まないと思うからいいよ」


「ダメ! 彼女のためにもきちんとして行きなさい。職業も……公の場でもきちんと答えられるような職につきな?」



はぁ……それは恒にも言われたことで、自分自身が一番分かっていること。



「大丈夫、きちんと考えてるから」


「うん、信じてるからね」



金を払って、店を出た。真っ青な空の下、ウィンドウにうつる自分の姿を見てフッとため息がこぼれた。


髪が黒かった頃の、昔の自分を思い出していた。