「悪いね、仕事に手間取った」
「そうか、ならしょうがねえな」
明らかな嘘。
でも誰も何も言わなかったのは、
「来てくれてサンキュな」
そう思ったからだろう。
いるだけで目の保養になる人がいるとは思わなかった。
美術品のよう、あるだけで皆を釘付けにする。
先ほどの騒がしさはどこにいったのか、急に清楚になる女性陣。気持ちも分からなくではない。
私とて、身を引き締めてしまう。というか、私の前に座っているし!
ドキドキが半端ない。
コートを脱いでたたむ彼と目があった。
「こんばんは、栂句琉希(とが・くるき)です」
「あ、藤堂彩芭、です……」
彼との会話に幸せを噛みしめている。


