「フラフラしてるし部屋の前まで送るよ」
あたしの腕をしっかりと抱きかかえて、佐野先生がマンションの中まで送ってくれようとする。
飲み過ぎてなかったら今の状況はありえないな…なんて、そんなことを思いながら、なんとか足を前に1歩1歩進める。
「1人で大丈夫ですから」
一瞬、佐野先生の手の力が緩んだのがわかった。今だ!
そう思って、先生の手を腕から離して、1人でエントランスの中に入る。
「あっ、古賀先生待ってよ!」
「送ってくれてありがとうございました。タクシー代は明日ちゃんとお支払いしますね。おやすみなさい」
急いでエントランスの自動ドアを開き、1人でフラフラしながらマンションの中に入って行った。
「あー頭が割れそう…あたし、なにやってるんだろう」
エレベーターの中で、額に手を当てて大きな溜息を吐く。
佐野先生の話を聞くためにバーに行ったのに…全然、話なんて聞いてないし、覚えてもない。
ただ、あたしはイライラして1人でいたくなくて…佐野先生と出かけたんだ。
そう……アイツのせいで。

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