春は来ないと、彼が言った。



睦くんもそれを不思議に思ったのか、くるりと後ろを向いた。

それにならい、わたしも視線を動かす。



「……あっ」



漏れたのは、小さな感嘆。

溢れたのは、大きな高揚。


睦くん越しに見た窓の外に、さんさんと照りつける太陽の姿があった。

早くも肌がじっとりと汗ばみ、呼応するように雪解けがスピードを上げる。




―――夏が、来たんだ。




「睦くん、夏だよ!夏!」



1ヶ月ぶりに見たとは思えないほど、青い空に映える白い雲が懐かしかった。


遠くの方からは蝉の鳴き声が聞こえる。