春は来ないと、彼が言った。



一通り食べ終えた頃、頬に真っ赤な紅葉跡を付けた睦くんが帰ってきた。


哀しいかな……それさえもわたしたちは、見慣れている。



「お疲れさん」



にやっと嫌な笑みを浮かべた恢は揶揄するようにそう言った。

それを見た睦くんは露骨に顔を歪めると、しっしっと追い払うように手の甲を恢に向けて苦笑した。


告白されてるはずなのに、いつもいつも睦くんはビンタを受けている。

どうしても納得できなかったわたしは昔、我慢できず文句を言ったことがある。



でも、睦くんはわたしなんかよりずっと大人だった。