春は来ないと、彼が言った。



り、睦くんの存在、すっかり忘れてた!


思いっきり顔に出てしまったのか、眉を下げて睦くんは苦笑している。

…なんだか言いようのない罪悪感に駆られた。



「…チッ、まだいたのか」

「あっ、ひどい!!」

「ほら行くぞ、椛」

「え、う、うん!って、わ!ま、待って!歩くの早い!」



足が長い恢は、必然的にわたしと歩幅が違う。


いつもは文句を言いながらも合わせて歩いてくれるのに、今日はずかずかと早足だった。



「(恢ってほんと…わっかりやすいなぁ)」

「…おい、ニヤニヤしてんじゃねぇよ」



恢が不機嫌を貼り付けたまま振り返り、ぎっと睦くんを睨み付けた。