春は来ないと、彼が言った。



さらりと黒髪のかかった恢の眉間には、くっきりと皺が読み取れる。



「おっはよー、恢!なにってほら……いちゃいちゃ?」

「し、してないよっ!か、恢っ、おはよう!こ、これは睦くんがっ…」



頑張って睦くんを押しのけようとしていると、恢がわたしの肩を強く後ろに引いた。


あれデジャヴ?なんて言う余裕はない。


呆気ないくらい腕がするりとほどけ、気付くと恢の隣にいた。

…やっぱりここが、一番安心できる。



「言われなくてもわかるっつーの、バカ椛」



わたしをじっと見下ろして、溜息混じりの言葉を淡々と吐き棄てる様に言った。